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花王はなぜ「姿勢」に着目したのか?
――現代人の生活は、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、運動不足などによって、知らず知らずのうちに身体へ負荷がかかりやすい環境にあります。姿勢を意識しても、それを維持するのは簡単ではありません。
花王は15年以上にわたって歩行研究を続けてこられました。その研究はどのように始まり、なぜ最終的に「姿勢」へとたどり着いたのでしょうか。
植田:歩行研究の出発点は、「おむつ」の履き心地研究にあります。乳幼児は言葉で履き心地を伝えることができません。そこで花王では、歩き方にその子の状態や心の声が表れているのではないかと考え、長年歩行の研究を続けてきました。
その後、対象を大人へと広げて歩行研究を続ける中で、ある疑問を抱くようになりました。
被験者の方に「もう少し歩幅を大きくしてみましょう」「こう歩いてみてください」とアドバイスすると、その場では皆さんの歩き方が良くなるんですね。ところが、ふと帰り道の様子を見ると、すっかり元の歩き方に戻ってしまっていて……。その時にハッとしました。
アドバイスや意識付けだけでは、生活者の日常は変わらない。頭で意識し続けなくても、無意識のうちに身体のバランスが整うようなアプローチが必要なのではないか。
そこから、歩き方そのものではなく、その背景にある身体のバランスや姿勢に着目するようになりました。
――なるほど。つまり、歩き方を変えようとしても、その人自身の身体の癖が残っている限り、なかなか元の動きから抜け出すことは難しいということですね。その後、研究を続ける中で、どのようなことが分かってきたのでしょうか。
植田:私たちは、まず「身体の癖はどこに表れるのか」を考えました。
姿勢を見るのであれば、立ち姿を測るという考え方もあります。ただ、人は「ちゃんと立とう」と意識すると、その瞬間だけ姿勢を整えられてしまうんです。
その点、歩行は一見単純なくり返し動作に見えますが、立っている状態と比べると、無意識のうちに瞬時に状況を判断して、筋肉を動かしバランスを取るなど、身体の中でさまざまな処理が行われています。
だからこそ、その人本来の身体の使い方や癖が表れやすいのではないかと考えました。
一方で、歩行姿勢を正確に測ろうとすると、専門的な機器や大掛かりな計測環境が必要になります。それでは日常の中で活用することが難しい。
「生活者自身が、自宅で手軽に測れないか」という発想で研究を続けてきました。
――セルフで測れることと、正確に測れること。その両立に挑戦してきたんですね。これだけの研究成果がありながら、なかなか製品化にはつながらなかったそうですね。
植田:そうですね。研究としては価値があると思っていましたし、自治体や企業向けのサービスとして活用される場面もありました。ただ、一般の生活者の方々に届けるという意味では、まだハードルが高かったんです。研究者だけでは見えなかった視点が加わったことで、この技術を生活者の皆さんの日常へ届ける道が少しずつ見えてきました。
惠口:私が最初に植田さんの研究を見た時、歩行からここまで多くの情報が分かることに驚きましたし、一方で「この技術が研究室の中だけに留まっているのはもったいない」とも感じました。
どうすればこの研究を生活者の皆さんに届けられるのか。そこから、私たちの挑戦が始まりました。