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column 03

生活に溶け込む
プロダクトを目指して

~開発者とデザイナーが貫く
生活者視点のものづくり〜

2万人を超える膨大な歩行解析データから生まれた、歩行姿勢分析アプリ「my Symmetry」と、着用時のゆがみ補整インソール「THE CORE」。
しかし、それがどれほど優れた技術であっても、生活者が一目見てワクワクし、「使ってみたい」と思えるプロダクトにならなければ、日常の習慣にはなり得ません。

「生活者は何を求めているのか」。
その問いに向き合い続けてきた『my Symmetry』『THE CORE』の開発チームに、入社1年目でプロダクトデザインを担当した黄と、数々の新規事業でUIやパッケージデザインを手がけてきた下側が加わりました。15年の研究成果から生まれた技術を生活者に届けるために。
プロダクト、アプリ、パッケージに込められたクリエイティブの裏側を伺いました。

1

生活者視点から始まったものづくり

――デザイナーのお二人が今回のプロジェクトに合流されたときの状況や、オリエンテーションの時の印象はいかがでしたか?

下側:私は花王の「作成センター」で、生理用品や大人用おむつなどのサニタリー領域のデザインと、新規事業のUI・UXデザインを担当しています。

今回のお話をいただいた時は、これまでの花王にはあまりなかったタイプのプロジェクトだなという印象でした。
というのも、花王の商品は店頭で販売するものが中心ですが、今回はアプリを入り口としてECで購入いただく新しい形の事業だったからです。

そのため、パッケージ単体ではなく、アプリとのつながりや、オンライン上でどう見えるかまで含めて考える必要がありました。

――店頭での見せ方ではなく、アプリやECも含めて考えなければいけなかったわけですね。実際にプロジェクトへ参加されたときは、デザインの方向性も含めてまだ模索している段階だったのでしょうか。

下側:そうですね。
インソールはすでに機能の検討が進んでいたのですが、パッケージは箱のサイズだけが決まった真っ白な箱があるだけで、デザインの方向性は何も決まっていませんでした。

一方、アプリも一度テスト用に開発した初期のモックアップの状態で、これからどう育てていくかを考える段階で、開発側の皆さんも、「これを作りたい」という完成形を持っているというより、「こんな技術があって、こんなことを実現したいと考えていますが、どう思いますか?」という感じで、いろいろな材料を持ち寄りながらみんなで考えていくようなスタートだったんです。

パッケージデザイナー:下側

――パッケージデザイナーの立場からすると、かなり難易度が高そうにも感じます。

下側:そうかもしれません(笑)。
長く続いているブランドの商品は、守るべき資産やルールもあります。一方で今回は、ブランドの見せ方も含めて自由に提案できる余地が大きかった。
だから難しさもありましたが、それ以上にワクワクしていましたね。

惠口:新しいブランドとして世の中に出していく以上、尖っていないと目立たないし、覚えてもらえない。新規事業だったこともあって、最初はあえて「花王らしくない」方向のデザインに思い切って挑戦しようとしていました。

下側:そうでしたね。
アプリの画面を見せていただいた時も、すごく先進的で尖ったデザインではあったのですが、どこか無機質な印象もあって……。

でも実際に測定してみると、自分の状態がスコアとして表示されて、その瞬間、周りにいたデザイナーから「おおっ!」という声が上がったんです。「自分の身体の状態が分かるって、こんなに面白いんだ」と感じましたし、この体験をどう生活者の皆さんに届けるかが大切だと思いました。

黄:私は当時、まだ入社1年にも満たない頃でした。それまで日用品のデザインを担当していたので、正直インソールはほとんど気に留めたことがありませんでした。
もちろん存在は知っていましたが、自分とはあまり縁のないものだと思っていたんです。

高橋:世間一般の方にとっても、そんな程度だと思うんです。実は私自身も、このプロジェクトに関わる前はそうでした。だからオリエンテーションの時は、展示会で初めてインソールを体験した時の感動や、「これは多くの人に届けたい」と思った理由を、必死に伝えていた記憶があります。
ヒールカップやアーチといったそれぞれの構造には意味があるし、この形にも理由がある。その価値をどう伝えればいいのか、一生懸命話していましたね。

黄:高橋さんのお話や研究データを見せていただくうちに、どんどん興味が湧いてきたんです。
「この形状にはちゃんと理由があるんだ」と分かってきて、気づけば自分でもインソールを調べたり、欲しくなったりしていました(笑)。

ベースとなる機能は研究や開発で形になっていましたので、私はそれをどうすれば花王らしい佇まいにできるか、どうすれば生活者の方が手に取りたくなるかを考えながらデザインしていました。

プロダクトデザイナー:黄

――お話を伺っていると、皆さんが向き合っていたのは単にアプリやインソールを作ることではなく、生活者の視点で、プロダクトと向き合っていたんですね。

下側:その良さをどうすれば生活者の皆さんに伝えられるのか。生活者視点に立ったとき、どんな見せ方がベストなのかということは、ずっと考えていました。

2

「生活者視点」へ引き戻したデザイナーのひと言

――歩行解析技術から得られる情報は膨大だったと思います。どのようにアプリへ落とし込んでいったのでしょうか。

惠口:最初は本当に悩みました。歩行解析から分かることは多く、歩き方の特徴や身体の動き、関節の使い方など、研究者にとって興味深い情報がたくさんあります。

私自身も初めて触れた時は、「こんなことまで分かるのか」と驚きましたし、その価値をできるだけ伝えたいと思っていました。
だから初期のアプリでは、歩行解析の結果をかなり細かく見せようとしていたんです。

――当初は今とはかなり違うアプリだったんですね。

惠口:当初は、歩行解析の結果をもっと詳しく見せようとしていました。
例えば3Dモデルを動かして、自分の歩き方をさまざまな角度から見られるようにしたり、身体の状態に応じて見え方が変化したり。自分の歩き方を客観的に見られることで、身体のゆがみへの理解も深まるのではないかと考えていたんです。
研究成果としては面白いですし、私自身も「面白い」と思っていました。そんな時に下側さんから言われたんです。

下側:「生活者の方は何が知りたいんだろう?」って。
その頃はパッケージやブランド全体の見せ方も考え始めていたので、「このアプリの雰囲気と、これから届けたい体験には少し距離があるかもしれない」と感じていました。

惠口:そう言われて、最初はドキッとしました(笑)。

――確かに、開発側としては技術の凄さを伝えたくなりますよね。

惠口:でも改めて考えてみると、生活者の皆さんが知りたいのは歩行解析の技術ではなくて、「今の自分の身体がどういう状態なのか」なんですよね。
私たちは優れた歩行解析技術を目の前にしていたので、どうしても技術の凄さを伝えたくなってしまうんです。
でも、本当に目指すべきなのは、研究や技術の凄さを伝えることではないはず。
このアプリで何を一番大事にするのか。どこを目指してプロダクトを作るのか。下側さんの問いかけが大きな転換点になりましたね。

下側:技術として面白いことと、生活者の方が知りたいことは必ずしも同じではありません。
だから画面一つひとつを見ながら、「ここで生活者は何を感じるだろう」「何が分かれば次の行動につながるだろう」ということをくり返し議論していましたね。

惠口:そこからは本当に議論の連続でした。下側さんと一緒にオンラインのホワイトボードを使って画面遷移を並べたり、ベンダーさんにも入っていただいたりしながら、プロトタイプを作っては直し、また作っては直す。
普通の商品開発ではあまり経験したことのないスピード感だったと思います。

議論を重ねる中で、「生活者の方が一番知りたいのは、自分の身体がどうゆがんでいるのか」というところにたどり着きました。

その結果、現在の『my Symmetry』では、骨盤のゆがみ・傾き・ねじれ、股関節・膝・足首の関節動作といった6項目を解析し、その結果をできるだけ直感的に理解できる形で表示しています。さらに、その状態に応じて300通り以上の中からおすすめのエクササイズを提案する仕組みにしました。

3Dモデルもなくなりましたし、見せる情報もかなり絞り込みました。
情報を増やすのではなく、「今の身体の状態が分かること」と「次の行動につながること」を大切にしたんです。

アプリ開発者:恵口

――かなりシンプルな画面に見えますが、その裏側には膨大な試行錯誤が詰まっているんですね。

惠口:歩行研究として考えれば、もっとたくさんの情報をお見せすることもできます。
でも、自分の身体の状態を知って、「ちょっとやってみようかな」と思えること。その一歩を後押しできることが、このアプリの価値だと思っています。

3

生活に馴染むインソールを作るためのこだわり

――アプリでは、「今の身体の状態を知ること」にたどり着いたお話を伺いました。一方で、高橋さんは並行してインソール『THE CORE』の開発も進められていました。どんな価値を目指していたのでしょうか。

高橋:私たちが大切にしていたのは、「その人に合ったものを届けること」でした。
インソールって本当に良いものだと思うんです。でも世の中には本当にたくさんの種類があって、どれを選べばいいのか分からない。一方で、私自身が最初に感動したインソールはオーダーメイドだったのですが、価格的にも、作る手間という意味でもハードルが高かったんです。

だからこそ、『my Symmetry』で身体のゆがみを把握し、その状態に合ったインソールを提案する仕組みを作りたいと思いました。そこは、このプロダクトならではの大きな価値だと思っています。

――アプリとインソールは、最初から一つの体験として考えられていたんですね。

高橋:そうですね。
『身体の状態を知る』だけではなく、『その先の行動につながること』も大切だと思っていました。

もう一つ大事にしていたのが、「生活に馴染むこと」でした。
姿勢や歩き方は、意識して変えようと思ってもなかなか変えられません。最初は気をつけていても、気づけば元に戻ってしまう。だからこそ、無意識の時間も含めて身体をケアできることが大切だと思いました。
インソールは、履いてしまえば意識しなくても使い続けられます。だから生活の中に自然と入り込み、無理なく続けられる存在にしたかったんです。

――その考え方が、『THE CORE』の特徴的な形状にもつながっているのでしょうか。

高橋:はい。一般的なインソールは、元から入っている靴のインソールに合わせてカットしてサイズを調整するので、一度入れるとその靴専用になります。でも私たちは、いろいろな靴で使っていただきたかった。

また、開発にあたっては、足元を整えるために本当に必要な要素は何かを見極めながら設計を進めました。

その結果、たどり着いたのが、あえてつま先部分を省いたハーフタイプの形状です。靴を履き替えるように、インソールも自然に入れ替えて使える。その方が無理なく使い続けていただけると考えたんです。

インソール開発者:高橋

――機能や価値を形にしていく上で、黄さんはどのようなことを意識していたのでしょうか。

黄:機能としての方向性はすでに決まっていたので、私が考えたのは、その価値をどう形として伝えるか。
私自身もこのプロジェクトを通じてインソールの魅力を知り、気づけば欲しくなっていたので、生活者の方にも自然と手に取りたくなるようなデザインにしたいと思っていました。

光の当たり方や表面の質感がどう見えるのかを確認するために、市場にあるさまざまなインソールを研究しながら、工場から送られてくる3Dデータをもとに社内の3Dプリンターで何度も試作をくり返しました。

高橋:本当に数え切れないくらいの試作を作っていましたよね(笑)。

黄:実は、かかと部分のデザインだけでも30案くらい検討しています。
『THE CORE』のロゴをどこに配置するか、ロゴは印刷にするのか彫刻にするのか。さらに裏面に施したシボ(凹凸模様)も、何百種類もあるサンプルの中から、このプロダクトに最適なものを選びました。

高橋:実は、このシボには大きな意味があるんです。
見た目や手触りのためだけではありません。柔らかい発泡素材の表面にシボを入れることで耐久性が高まります。また、靴底と接する部分にもシボ加工を施したことで、靴の中でインソールがズレにくくなるという効果も生まれました。
黄さんが選んだデザインが、結果的に機能にもつながっていました。

黄:また、生活者の方に長く使っていただくことも意識していました。
例えば花王のロゴは印刷ではなく彫刻にしています。長く使っても消えにくいですし、傷も目立ちにくい。もしインソールに何かあっても花王にお問い合わせいただけるようになっています。一つひとつは小さな違いですが、毎日使うものだからこそ、そうした細部までこだわりました。

高橋:ハーフ形状の先端をなめらかに薄く仕上げてくれたおかげで、靴に入れた時の段差感が少なくなり、履き心地も大きく向上しました。
毎日使い続けてもらうためには、こうした細かな使い心地もすごく大事なんです。

4

人と商品の「出会い」をデザインする

――黄さんが細部までこだわって仕上げたインソールも、最終的には下側さんがデザインしたパッケージに包まれてお客様のもとへ届きます。下側さんは、このパッケージにどのような思いを込められたのでしょうか。

下側:商品と出会ったお客様の気持ちがワクワクしたり、「自分の身体を整えてみたい」と思ったり。そうした前向きな気持ちを後押しする“出会い”をつくることが、パッケージデザインの大切な役割だと思っています。

ただ、今回考えていたのはパッケージだけではありませんでした。
開発側から花王ライフケア研究所の構想や戦略を共有いただいていたので、パッケージのデザインだけでなく、ブランド全体のコンセプトやビジュアルも含めて考えていました。

特に今回はアプリとインソールがセットになったプロダクト。だからパッケージ単体ではなく、アプリで感じた印象と、商品が届いた時の印象が自然につながることも意識していました。

その上で大切にしたのが、商品との「出会い」です。

――具体的には、どのような工夫をされたのでしょうか。

下側:まず、ECで商品を見た時に、「なんだか気になる」「使ってみたい」と感じてもらえること。そして購入した後も、その期待感が続いていくことを目指しました。

変化への期待感を呼び起こすブランドカラーのオレンジをキーカラーにして、身体が前向きに変わっていくイメージをグラデーションで表現しています。実は途中のスケッチでは何度も方向性が変わったのですが、最終的には朝日が昇るような、自分の身体が少しずつ変わっていく期待感を感じられる表現にたどり着きました。

――単にパッケージをデザインするというより、体験全体を設計していたんですね。

高橋:商品が届いて最初に目にする部分の作り込みも印象的ですよね。

下側:意識していたのは、お客様が商品を見つけてから実際に使い始めるまでの気持ちの変化。

例えば、ECで商品を見て「ちょっと気になる」と思う。購入した後、数日経って商品が届く。「今日から使うのが楽しみだな」と思い出す。そして箱を開けて実際に使い始める……。
そうした一つひとつの場面で、どんな気持ちになってほしいかを考えながらデザインしていました。

インソール本体に入れた流線のグラフィックも同じです。機能を直接説明するものではありませんが、「身体が整っていく」「前向きに変わっていく」という期待感をさりげなく感じていただけるようにしています。

ある意味、パッケージそのものをデザインするというより、お客様が商品と出会ってから使い始めるまでの体験全体をデザインしていたような気がします。商品との出会いが、「自分の身体を整えてみようかな」という最初の一歩につながったら嬉しいですね。

5

生活者にとって、本当に価値のあるものとは

――ここまでお話を伺ってきて、皆さんそれぞれ異なる立場からプロジェクトに関わりながらも、「生活者にとって本当に価値のあるものは何か」を考え続けてきたことが印象的でした。このプロジェクトを通じて、皆さんが考える「良いプロダクトデザイン」とは何か。生活者の方へのメッセージも込めて教えてください。

黄:良いプロダクトデザインは、使う人の生活の中に自然に入り込んで、気づかないうちに行動や気持ちを少しずつ前向きに変えられるものだと思っています。インソールでは、派手な装飾を施すのではなく、どんな靴にも馴染む日常的な美しさにこだわりました。
皆さんの毎日の生活の中で、長く愛用していただけたら嬉しいです。

下側:私にとって良いデザインとは、お客様の気持ちをアシストすることだと思っています。
商品と出会った時にワクワクしたり、「ちょっと身体を整えてみたいな」と思ったり。そうした前向きな気持ちを後押しできることが、デザインの大切な役割なのかなと考えています。
お家に届いた瞬間、箱を開けた瞬間の、あのちょっと気分が上がるような期待感を、ぜひたくさんの生活者の方に楽しんでいただきたいです。

高橋:私は「あったらいいもの」ではなく、「なくてはならないものを作る」という言葉をずっと大切にしています。見た目の美しさも、機能も含めて、「これがないと困る」と思っていただけるような存在になれたら嬉しいです。

惠口:使っていてある種感動する、心を動かしてもらえる瞬間があること。そして「自分のために、ここまで考えて作ってくれたんだ」という愛着を感じてもらえるものが、良いプロダクトだと思います。
長く続けてもらえるよう、これからもお客様に寄り添うアップデートを主導していきたいですね。

――皆さんの言葉はそれぞれ違っていましたが、その根底には「生活者にとって本当に価値のあるものは何か」を問い続ける姿勢が共通してあったように思います。
『my Symmetry』『THE CORE』は、世界最大級のテクノロジー見本市「CES」で披露されるなど、新たな挑戦として注目を集めています。開発者、デザイナー、それぞれの専門性が交わって生まれたこの挑戦が、これからどのような広がりを見せていくのか。今後の展開にも期待しています。本日はありがとうございました。

PROFILE

  • 作成センター
    「パッケージ」デザイン担当(取材当時)

    下側 有美子

  • 作成センター
    「プロダクト」デザイン担当(取材当時)

    黄 佳馨

  • ライフケア事業開発部
    「アプリ」開発担当者(取材当時)

    惠口 奏

  • ライフケア事業開発部
    「インソール」開発担当者(取材当時)

    高橋 翔平

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